これは読書家の私が日頃の読書でビューティフルを感じた一文を紹介するコーナーです。
さて今日のビューティフルはどんな一文でしょう?
コチラである。
自由を欲する者が狂人とならざるを得ぬ事態の告発とそれへの抵抗のドラマであるわけだが、決して深刻な芝居ではない。むしろドタバタ劇に近い雰囲気を備え、しかもその粘り気のある滑稽さが主題の重さを支えている、と言った体の舞台なのである。
詳しくは続き読むで。
これは白水社からでている『戯曲の窓・小説の扉』という本の中の一文である。
前回の名文紹介と同じ本ですね。↓にリンクを貼っておきます。
この本はお芝居や小説について取り扱ったエッセイ集なのだが、件の一文は『狂人と尼僧』という戯曲のあらすじを紹介する時に出てくる。
『狂人と尼僧』?
ポーランドのヴィトカッツイという人が書いた戯曲らしいが、実際の内容は私もまったく知らない。
しかし、今回のチョイスで重要なのは、文章と実際がピタリと一致するような表現の正確性ではない。よって、私が『狂人と尼僧』の内容を知っていようと知らなくとも関係がない。
へえ、では何を基準にこの文章を選んだんです?
表現そのものにパワーを感じたからである。重要な部分を太字にして、もう一度引用するから、よく注意して読まれたし。
自由を欲する者が狂人とならざるを得ぬ事態の告発とそれへの抵抗のドラマであるわけだが、決して深刻な芝居ではない。むしろドタバタ劇に近い雰囲気を備え、しかもその粘り気のある滑稽さが主題の重さを支えている、と言った体の舞台なのである。
粘り気のある滑稽さ、ですか。
そう。このワード、常人には出てこない。
一般に「滑稽」という言葉はマイナスのイメージだろう? 作品を批判したり、心の中で嘲笑する時にしか使う、ちょっと嫌な単語だ。
しかし、そこに「粘り気のある」というプラスイメージの形容詞をくっつけることによって、「滑稽」のマイナスイメージを払拭し、更に、単語一つでは表現できないような独特の意味合いを含ませることに成功している。
「プラスイメージの形容詞」+「マイナスイメージの名詞」
=粘り気のある + 滑稽さ
=粘り気のある滑稽さ
=一つの単語では表現できないような独特の意味合い
ということですね
その通り。「愛すべき馬鹿」や「幸せなデフレ」、「栄光ある孤立」というような言葉もこの図式の表現であろう。
他にも探せば色々ありそうですね。
あ。「尊厳死」なんてどうです? 「尊厳的な死」と考えれば、同じ図式です。
なるほど、硬く概念的なプラスイメージの「尊厳」と、絶対的なマイナスイメージの「死」がぶつかりあって、やはり代替不可能な独自性のある言葉になっている。
「プラスイメージの形容詞」+「マイナスイメージの名詞」
この図式は自分で表現を作り出すときに参考になりそうです。
・・・・
・・
ところでM子先輩。
何かね。
「粘り気のある滑稽さ」っていう言葉の魅力は解りましたが、これって具体的にどんな作品に対して使うんです?
むむむ。確かに言われてみれば、「粘り気のある滑稽さ」のある作品ってなんだ。そんな作品あるのだろうか。
やはり戯曲『狂人と尼僧』を読んでみるしかないのでは?
待つんだT中君。私は知っている気がするぞ、「粘り気のある滑稽さ」のある作品を知っている気がするぞ。
こういう時はK林教授に聞いてみるのだ!
教授室に行きましょう。
・・・・
・・
うっひょひょーい! 今日の東海オンエアも面白かったお! さてユーチューブの巡回が終わったから、今度はアマゾンプライムでアニメ見るお!
(……相変わらず仕事してねえ)
教授。今日の名文紹介です。
え? ああ、はいはい。受理。
自由を欲する者が狂人とならざるを得ぬ事態の告発とそれへの抵抗のドラマであるわけだが、決して深刻な芝居ではない。むしろドタバタ劇に近い雰囲気を備え、しかもその粘り気のある滑稽さが主題の重さを支えている、と言った体の舞台なのである。
何コレ? こち亀の書評?
(うおおおお! それだー! こち亀は自由を欲する者が狂人とならざるを得ぬ事態の告発とそれへの抵抗のドラマだー!)
(でも決して深刻な芝居ではなく、むしろドタバタ劇に近い雰囲気を備え、しかもその粘り気のある滑稽さが主題の重さを支えている、と言った体の物語だー!)
……?