K林教授
どうも、短歌四コマのお時間です。今回の短歌は「栞のない読書」という題名でお送りします。短歌監修の文士M子先生、解説をよろしくお願いします。
M子
はい当四コマシリーズの短歌・俳句作成を担当しております文士M子です。早速ですが今回の短歌はこちら。
栞なき
電車の中の
朝読書
昨日と同じ
景色の気がする
M子
詳しい解説は続きを読むをクリック。
K林教授
なるほど、電車の中で朝読書をしていると、栞がなくて昨日と同じ”景色”を見てしまったと。
M子
その通りでございます。特に”景色”という言葉について、何を指しているか考えてみてください。
K林教授
そうですね。栞のない朝読書ということですので、この歌の言う”景色”とは本のページのことを指しているのではないでしょうか。つまり、電車の中で朝読書をしているが、栞がないので間違えて昨日読んだページをもう一度読んでしまった、というのがこの短歌の意味合いだと思れます。
M子
さすがですK林教授。まさしく、この短歌の言う”景色”とはまさに、本のページのことを指しています。しかし教授、この歌が意味するところは単に『うっかり昨日と同じページを読んじゃいましたー』というだけではありません。
K林教授
なにっ。詳しい解説をお願いします。
M子
はい。やっていきましょう。まず、前提として現代人たる我々は、毎日同じ時間の同じ電車に乗る生活を送っているものです。また仕事や学校の内容が単調と感じることも多く、我々の生活は”変わらない日常”の連続だと言っていいでしょう。
M子
そんな中での朝読書の習慣は、日常に変化を感じさせるものです。何故ならば、本の世界は読めば読むだけ着実に進んでいくものだからです。換言すれば、朝読書の習慣とは、変わらない日常世界の中で唯一確実に前に向かって変化していくものだと言えます。
K林教授
なるほど。代わらない日常の中で唯一変化するもの、それが朝読書ですね。
M子
そうです。また、このように変わらない日常を前に進めてくれる趣味や習慣は、現代人の心の拠り所となっている場合が多いです。教授もそうではないですか。例えばゲームなんかの趣味も、セーブポイントという名の栞を使って、遊べば遊ぶほどその人に前向きな変化をもたらしてくれます。変化のない日常生活を送っている人は、このゲーム趣味こそが心の拠り所となるはずです。
K林教授
た、確かにゲームは心の拠り所だ! 楽しい変化が訪れる趣味や習慣は、現代人の心の拠り所ということで間違いありません!
M子
はい。さてここからがこの短歌の本題です。その現代人の心の拠り所となるような習慣、ここでは朝読書の、栞を挟み忘れた時を想像してみてください。
K林教授
あらあらあら大変。どこまで読んだか解らなくなっちゃった。昨日の記憶を頼りにページを探すしかありません。
M子
そうですよね。どこまで読んだか解らないから、とりあえず記憶を頼りに昨日のページを探し当てますよね。そして本の文章を読み始めます。
M子
しかし、いくら読み進めても本の文章は昨日と同じような気がします。顔を上げて周りの景色を見てみても、そこには栞を忘れた本の世界と同じ、昨日と同じような景色が広がっているのです。
M子
そんな時、ふと不安がよぎります。自分の人生は本当に前に進んでいるのかと。昨日と今日で何か変化したのかと。栞の進み具合という自分の中だけに存在する小さな変化に過ぎないのに、それを失った瞬間、途端に世界の変化から自分だけが取り残されたかのような感覚に陥ってしまいます。
M子
つまりこの短歌は、私だけが感じていた日常の変化(朝読書のような心の拠り所となるような趣味や習慣)というのは実はとてもちっぽけなもので、一つ何かを忘れる(栞を挟み忘れる)だけで、その趣味や習慣も途端に変わらない日常の一部になってしまうという、日常世界の変化に対する人間の感覚の脆さや儚さを表現しているのです。
K林教授
なるほど、なるほど。日常世界の変化に対する人間の感覚の脆さや儚さの表現、この短歌はそういう意味でしたか! 素晴らしい! 素晴らしいです! マーベラスです、文士M子先生!
M子
ははっ。それほどではございません。ただ私は少々人間の孤独や儚さを詠むのが上手いというだけです。
K林教授
いいえ謙遜なさらないで! M子先生は立派です! マーベラスです!
M子
はっはっは。ではこれからはマーベラスM子と名乗りましょうか。大変に気分がいいですねえ。
K林教授
ちなみにマーベラスM子先生は朝読書でどんな本を読んでいるんですか?!
M子
はいはい。最近の私の読書はコチラです。
K林教授
ふ、不倫!
M子
はっはっは。中公新書は表紙がカッコイイので気になるタイトルを見つけるとつい買ってしまいます。まあ、私レベルになるとはどんなジャンルのどんな内容の本であろうと、通勤中にさらっと読んでしまうということですよ。
K林教授
さすがM子先生、この尖り方がカッコいい! そこに痺れる憧れるぅ!
M子
ではまた次回の短歌四コマで会いましょう。さよなら、さよならー。
K林教授
さよならー、さよならー。