当記事の説明
・当記事は短編ミステリーです。
・キャラクター達の吹き出し会話を読み進めることでストーリーが進行します。
・ストーリーの途中、探偵役の推理シーンで、選択肢や自由入力の回答を求められます。
・ズバリ一発で正しい答えを出して、名探偵気分を味わってもらえれば幸いです。
なお、誤った回答をしたとしてもペナルティーなどはありません。
答えがわからない場合は、ヒントコーナーを設けておりますので、そちらを参考にしてください。
・また、当記事のミステリーのトリックを解くにあたり、当ブログ内の他記事で言及されているキャラクター設定等は全く関係ありません。
つまり、このミステリーのトリックはこのミステリー内の設定でのみ完結しております。
（とはいえ、キャラクター感や雰囲気はブログ通して共通ですので、是非ほかの記事も読んでいただけると嬉しいです）
それでは本編をお楽しみください。
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名探偵Ｔ中の事件簿「悪質ポスターばらまき事件～異物混入レポートの謎～」
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日付：２０XX年９月１９日（月曜日）
時間：１６：５０
場所：大学校内 講義室A
内容：N山教授 入門経済学 講義中
N山教授
えー、聞いとるかバカ学生共。今から大事なこと言うから、全員起きた方がいいぞ。ほら、隣で寝取る奴を起こせ。ほら全員起きさせ。
N山教授
起きたか？ 見た感じ全員は起きてないけど、まあいいか。
N山教授
僕は最近、貴様らバカ学生があまりにも講義中に寝てばっかりだから、僕はもうテストを作るのが嫌になった。
N山教授
よって今学期の成績評価はレポート制にする！ レポート提出は全部で四回！ 一回でもレポートを提出しなかったものは容赦なく赤点をつける！ つまりレポートを出さねば単位はやらん！
ざわ、ざわ・・・・
名もなき男子学生
えー！？ なんでだよー！ いつもの過去問暗記ヌルテストじゃねえのかよー！
名もなき女子学生
過去問暗記テストにしてー！ レポートなんてやだー！
？？
……。
M子
……。
ざわ、ざわ・・・・
N山教授
うるさい黙れバカ共！ 僕はもう決めたんだ！ 今学期はレポート制だ！ 一回でもレポートを出さなかったら単位は不可にしてやる！ 貴様らバカ学生共が寝てばっかりだから悪いのだ！
N山教授
では、第一回のレポート課題をだす！ レポート提出期限は来週月曜の１０時００分００秒まで！ 締め切り時間厳守！ １秒でも遅れると一切受け取らない！
名もなき男子学生
終わったー。レポートとかないわー。単位落としたわー。
名もなき女子学生
だるー。ハゲ山の講義取る価値なくなったわー。かえろー。
N山教授
なお、課題内容はこの後すぐ受講者それぞれにメールでお知らせする。もちろん、学生同士でのレポートのコピペを防ぐため、課題内容は全員違う内容にするからな。コピペで乗り切ろうとしているバカ共はもう単位を諦めたまえ。
N山教授
以上、今日の講義は終了。全員、帰ったらすぐメールチェックしとけよー。
ざわ、ざわ・・・・
M子
（ふむふむ。第一回のレポート提出期限は来週月曜か。一回でも出さないと単位落とされるらしいし、しっかり仕上げないとな）
？？
（ちっ。レポートとか、マジ怠いですわ。こっちはもう学業なんてどうでもよくなったから、このクソみたいな教授のクソみたいな講義を履修してるっていうのに……）
日付：２０XX年９月１９日（月曜日）
時間：２０：５０
場所：M子自宅内
内容：M子さっそくレポートに取り掛かるの巻
M子
さてと、ご飯も食べたし、早速N山教授の課題に取り掛かりますか。確かレポートの課題はメールで送られてくるんだっけな。
M子
Myノートパソコンカチカチっとね。お、N山教授からメールが来てるな。なになに私のレポート課題は……。
第一回入門経済学レポート課題内容について。
皆さんお疲れ様です。
入門経済学担当のN山です。
本日講義でお知らせした入門経済学の第一回レポートについてお知らせします。
以下の共通課題と個別課題をレポートにまとめなさい。
共通課題：経済学における需要・供給曲線とは何か図を用いて説明しなさい。
個別課題：パターン【D】
【供給曲線】が【左】にシフトする要因について、具体例を挙げながら説明しなさい。
参考・引用文献など明記があるとなおよいです。
また本レポートは次の仕様を守ること。
・本レポートはパソコンでの作成必須。手書きでの提出は認めません。
・用紙サイズはA４
・文字は横書き
・色はモノクロ
・プリントアウトしたレポートに学校指定の表紙をつけ、左上をホチキス留めして提出すること。
これらの仕様を守っていないレポートは受け取りません。
また講義中にも言いましたが、このレポートを提出しなかった者は問答無用で単位を不可にします。
提出期限は２０XX年９月２６日月曜日の午前１０時００分までです。１秒でも遅れると受け取りません。
ではみんな頑張るように。
かしこ
M子
なるほどなるほど。ガチで提出しないと単位落とされるっぽいな。
M子
でも、課題内容は簡単だ。需要・供給曲線って授業で習った奴だし、指定の教科書にもたっぷり説明が書いてある。これなら余裕で書けるな。
M子
よってこの課題は今日はやらなくてよし。今日は遊ぼうっと。
そこから二日後・・・
日付：２０XX年９月２１日（水曜日）
時間：１４：００
場所：M子自宅内
内容：M子レポートなんてすっかり忘れて遊ぶの巻
M子
ふーふーふー。大学生活は～人生の夏休み～、水曜日は午前しか講義を入れてないので今からずっと遊べまーす。るんるんるん。
M子
ん？ なんか大事なレポートあったような。まあいっか。ゲームしよっと。
同日、同時刻、大学構内教務課にて・・・
？？
本当に間違いありませんでしたか？ 教授会には再計算を進言していただけましたか？
教務課のおばちゃん
したよ。何回も計算したけど間違いないって言われたよ。
？？
そんなことありません。応用物理Ⅱでの採点ミスを加味すれば、全体の平均評価が一段階上がるはずです。
教務課のおばちゃん
それも反映した上での結果だって。
？？
絶対に嘘ですわ。教授方は面倒で計算なんてしていないのです。
教務課のおばちゃん
ねえ、もう諦めな。私達だって何度も教授会の方に言ったよ。計算の証明書だってこの前渡したでしょうに。でも間違いはなかったって、自分でも一回納得したじゃないか。
？？
……。
教務課のおばちゃん
残念だけど、うちではこれ以上は無理だよ。
？？
……ええ、解りました。
？？
（今学期からはもう、わたくしは特別な学生じゃない。他のバカ学生達と同じ、陳腐で凡庸な存在なのですわ……。）
更に二日後・・・
日付：２０XX年９月２３日（金曜日）
時間：１８：００
場所：M子自宅内
内容：M子レポートの存在を思い出すが……？
M子
もう金曜日来たわ。一週間早いな、明日から休みだ。ま、大学生にとっては毎日が休日みたいなものだけど。
M子
あでも、そういえばN山のレポートあったな。なんだっけ。提出しないと単位が貰えないんだっけ？
M子
ってアレって課題内容がめちゃ簡単な奴じゃん。こんなの土曜の午前中で出来るわ。
M子
よって金曜日は遊びまーす。
更に更に二日後・・・
日付：２０XX年９月２５日（日曜日）
時間：２０：００
場所：M子自宅内
内容：M子ようやくレポート作成開始
M子
結局N山の課題に一つも手を付けず、日曜日の夜になってしまった。
M子
まいっか。どうせすぐ終わるし。さて、課題は需要・供給曲線の説明だから、講義資料と教科書を開いて、書いてあることをさららーっとまとめます。ノートパソコンカチカチっとね。
１時間経過 現在時刻２１：００
M子
さて共通課題のまとめは終了。あとは供給曲線が左にシフトする要因を具体例つきで説明すればいいだけか。こっちも教科書に書いてあるし、完全なコピペにならにように、ちょいちょいとネット検索して文章をつけ足せば終わりだよな。
１時間経過 現在時刻２２：００
M子
はい、個別課題も作成完了。これでレポート完成だ。予想通りイージーなレポートだったな。
M子
念のため課題内容をもう一度確認しておくか。メールソフトを開いて、Ｎ山教授からのメールをクリック。えー課題内容は。
M子
共通課題は、経済学における需要・供給曲線とは何か図を用いて説明しなさい。個別課題の方が、供給曲線が左にシフトする要因について、具体例を挙げながら説明しなさい。以下ほにゃらららで明日の１０時までに提出しないと単位がないですよと。うんバッチリ課題はこなした。
M子
って、いや待てよ？ 図を用いて説明しなさい……？
M子
図って需要・供給曲線の曲線グラフのことだよな。あそうか、実際にそれを描かないといけないんだ。忘れてたわ。そりゃそうだよな。需要・供給曲線ってグラフの形が解ってないと説明したことにならないよな。
M子
経済学の需要・供給曲線って、こういう奴だけど。
M子
このテキトー図をパソコンソフトを使っていい感じに仕立て上げればいいわけだ。
M子
……あ、あれ？ でもパソコンで曲線グラフっぽい図を作るってどうすればいいんだ？ ネットで拾ってきた画像を貼り付けるのはさすがにマズいし、自分で作るしかないよな。いやいっそ図だけを手書きで作っちゃうのは？ ダメか、このレポートってパソコン作成必須だもんな。パソコンで作るしかないよな。まあ、とりあえずやってみるか……。
M子、パソコンで図を作るために試行錯誤中
２時間経過 現在時刻２４：００
M子
ああーん！ 綺麗な図が作れなーい！ どうすればいいのー！ もうダメだー！ 提出に間に合わないー！ ハゲ山ー！ なんで過去問暗記のヌルテストにしないんだー！
M子
しかしどうしよう。このままいくと本当にレポートが完成せず単位を落としてしまう。
M子
そ、そーうだ。こういう時は恥を忍んで教授にメールしよう。カタカタ―っとね。
M子からN山教授へメール
N山教授。
夜分にすみません。入門経済学を受講している学生のM子です。
第一回のレポートについて質問なのですが、当方のパソコン操作技術がいたらず、現在パソコンでの図作成が難しい状況です。
つきましては、レポート本文はパソコンソフトで作成、図に関しては手書きでの作成、とういことでもよろしいでしょうか？
M子
ええい送信！
２分後
M子
返信キタ！ さすが学生思いのハゲ山！ 日曜の２４時過ぎでもちゃんと返信してくれる！
M子
えーと内容はなになに。
N山教授からの返信１
学生達へ。入門経済学担当のN山です。
夜分遅くのご連絡となってしまい大変申し訳ありません。
本メールは私の入門経済学を受講している学生へ一斉送信しています。
というのも、つい先ほど私のもとに、こんな時間にメールをしてくる非常識な学生がいました。
まずその学生に対して言います。明日、私の元へきて『N山教授、迅速なご対応ありがとうございました』と言いなさい。
言わなければ貴方の単位を落とします。
M子
……。
N山教授からの返信２
さて本題に入りますが、その非常識な学生からの質問は、自分はパソコン操作ができずレポートに必要な図をパソコンで作成できません。
よってレポート内で図だけは手書きで提出してもよいですか、というものでした。
他にも同じことで悩んでいる人がいるかもしれませんので、一斉送信にて回答します
M子
……。
N山教授からの返信３
よいです。今回に限り図のみ手書きでの提出を許可します。
なお、本来は学術レポートで一部を手書きにするなどということはありえないことですので、他の講義では絶対にしないようにしてください。
重ね重ね言いますが、質問をしてきた学生は、こんな時間に回答する私に感謝をするように。
では皆さん頑張ってレポートを仕上げてください。
まだ半数以上の人がレポートを提出していませんからね。
たくさんの人を落第にできて私は嬉しい限りです。
みなさんどんどん単位を落としてください。
かしこ
M子
……。
M子
ふう、どうやら図は手書きでもいいみたいだ。これならレポートを仕上げられる。
M子
（……その代わり、明日私はN山教授にお礼を言いに行かなければならないのだが）
M子
まあいいや。ちゃっちゃと手書きで図だけ描いて早く寝よ。
２時間経過 現在、日付変わって月曜日深夜０２：００
M子
はぁ、はぁ、綺麗な図にこだわっていたら意外と時間がかかった。でもこれで完成。印刷は家のプリンターで上手いことできたし、言うことない。ホント疲れた。マジ疲れた。もう寝よ。明日は提出すればいいだけだし。
M子
というわけでおやすみー。すやぴぴぴぴ。zzzzzzz。
日付：２０XX年９月２６日（月曜日）
時間：０９：５０
場所：大学構内 N山教授室前
内容：M子ギリギリでレポート提出……？
M子
でえええい寝過ごしたけど間に合ったー！ 提出期限今日の１０：００までだっただああい！ でも間に合ったぁぁぁい！
M子
って、あ！？ まずい！ アレを忘れた！ アレがなければレポートを提出できない！？
M子
ヤバイヤバイヤバイ！ 時間がない！ どこかでアレを借りれないかな？
７分後 M子、色々と走り回った後、再びN山教授室前にて・・・
M子
ハァハァ。よかった、教務課で借りれた。これでようやくレポートを提出できる。
M子
あと、なんか途中で変な人に変な紙もらったけど、まいっか。カバンの中に入れて後で捨てようっと。ゴミゴミ、こんなのゴミだ。
M子
さて、本来ならレポートを提出する時は、教授室の前にあるレポートボックスに入れればいいだけなんだけど。
M子
私の場合は、諸事情で直接N山教授に手渡ししなければならない。というわけで。
M子
トントントン。もしもし、N山教授いますか。
M子のノックに応じて、ゆっくりと教授室のドアが開く。
N山教授
……提出期限３分前のレポート提出かね。ならそこのボックスに入れたまえ。他のバカ学生共もそうしているだろう。
M子
え、ええ私もそうしたいのですが。事情がありまして。
N山教授
？？
M子
N山教授。昨日は迅速な対応ありがとうございました。
N山教授
あ！ 貴様が昨日メールしてきた非常識学生が！ 待て貴様には特別課題を出してやる！
M子
それではまたー！ 私は用事がありますのでー！
N山教授
まてー－い！ この非常識学生めー－－－－！
こうしてM子は無事入門経済学のレポートを提出するのであった……？
・・・
・・
・
？？
・・・ん？ あの非常識学生め。なんで右上なんだ。左上だろ常識的に考えて。くそ、僕に手間をかけさせるな。
・・・
・・
・
日付：２０XX年９月２６日（月曜日）
時間：１２：１５
場所：大学構内 食堂
内容：学生T中の昼休み
T中
（ここは何の変哲もない日本のFラン大学。お昼休みの学生食堂では今日もバカ学生達が騒いでおります。）
名もなき男子学生１
え？！ あれの提出期限今日までなん！？ じゃあ俺N山の入門経済学落としたわー！ レポートとかまじキチー！
名もなき男子学生２
今から提出すりゃよくね？ 俺のやつコピペさせてやるよ！
名もなき男子学生１
マジで！？ さんきゅー！ これで留年回避できるわ！
名もなき女子学生
えっ！？ あれって課題バラバラなんじゃないの！？
名もなき男子学生２
全員一緒だよ！ 需要・供給曲線の説明だろ！ なんちゃら曲線が右シフトする要因だよ！
名もなき女子学生
右シフト？ 私は左シフトだったような……。
名もなき男子学生１
どっちシフトでも関係ねえわ！ とにかくこれで俺留年回避ー！
T中
（……バカ学生なのです。私もN山教授の入門経済学をとっていますが、あれの提出期限は今日の１０時までです。しかも、課題は学生毎にそれぞれ違うからコピペはできないのです）
T中
（でもまあ、コピペに関しては1/4の可能性で成功するかもしれませんね。確証はまだありませんが、おそらく1/4です）
？？
あんら？ そこにいるのは、特待生のT中さんではありませんか？
T中
（む。この声は……）
T中
こんにちはF嶺さん。
F嶺
ええこんにちは。相変わらずよくこんなところで食事ができますわね。バカ学生共が五月蠅くてしょうがないですわ。
T中
（この人はF嶺さん。私と同期の学生で、一学年に２人しかいない特待生仲間。入学してからずっと成績上位を争うライバル関係なので、私とF嶺さんは何かと交流がある。性格は見た通り高飛車なお嬢様って感じだけれど、悪い人じゃありません）
T中
まあ確かにここは騒がしいですけど、特待生特典の食券はここでしか使えませんからね。
F嶺
わたくしはここの学食自体一度も使ったことありませんわ。全然美味しそうじゃありませんし。特待生特典もいっそスタバのプリペイドカードとかにしてくれたらいいのに。
T中
何言ってるんですか。スタバは値段が高いのでコスパが合いませんよ。私達特待生は学食の激安うどんで大学四年間を過ごすべきです。
F嶺
よく飽きもせず毎日食べますわ。
T中
おいしいすよ？
F嶺
そう。でしたらコレ、貴方に全てあげますわ。
F嶺は何食わぬ顔で食券の束をT中に手渡す。
T中
え？ いいんですか？ この食券って前期分の残りの奴ですよね。有効期限とかありませんし、まだ使えますけど・・・。
F嶺
ええ。いいんです、全部あげます。もう私は全てどうでもいいんですもの。
T中
（……全てどうでもいい？ どういうことだ？）
F嶺
そんなことより、入門経済学のレポートはどうでしたか？ 確か貴方も今学期は履修していましたわよね？
T中
ええ。難なく提出しましたよ。内容は無難な感じに纏めましたけど、F嶺さんは？ いつものように攻めたレポート出してんの？
F嶺
ええ、今回も攻めたレポートを作りましたわ。コチラです。
T中
……え？
F嶺
攻めたレポートでしょう？
T中
いやいやいや、これがレポートってどゆこと？ レポートというよりポスターだし。何かの冗談？
F嶺
冗談ではありません。わたくしは今朝９時からこのレポート、もといポスターを校舎中に貼りまわってますの。貴方も貼ってあるのを見たでしょう？
T中
は、はあ。いえ私は、月曜日は午前中に授業を入れてないので、これは初めて見たんですが。
F嶺
そう。なら貴方にも１枚差し上げますわ。
T中
え、ええ。
T中
（って。この内容の掲示物を校舎中に貼りまわってるってヤバくね。ハゲ山とか書いてるし。さすがにFラン大学でもこれは許されなくね？）
F嶺
わたくしは気が付いたのですわ。こんなFラン大学なら真面目に勉強なんかするより、彼等のようにバカ騒ぎする方がいいって。
T中
（F嶺さんの視線の先ではさっきのバカ大学生たちが上半身裸になって騒いでいる）
F嶺
ではT中さん、わたくしはこれで。わたくしも彼らに混ざりますわ。
T中
え、え？ あそこに混ざんの？
F嶺
聞きなさいバカ学生共！ このポスターを作ったのはわたくしですわ！ これを拡散すればハゲ山がヌルテストに戻すかもしれませんわよ！
名もなき男子学生１
ええ？！ これF嶺が作ったの！？ 天才じゃん！
名もなき男子学生２
俺はそのポスター今朝もらった！ そんでレポート出すついでにハゲ山に直接手渡しした！
名もなき男子学生３
直接手渡しとかヤバ！ 俺も拡散しよっと！ 俺達の抗議活動でヌルテストに戻るとかアチー！
T中
（ほんとに混ざってるよ……明らかにF嶺さん病んでるな。ホントはこんな馬鹿ポスター作る人じゃにないのに。何かあったのか）
T中
（っていうか。このポスターも地味にクオリティ高い。図はしっかりパソコンソフトで作ってるし、ちゃっかり供給曲線が左シフトしてる。大学の単位取得の難易度を需要・供給曲線で表現するという点も、アカデミックジョーク的で面白いし。悪いのはタイトルに『ハゲ山』と書いたところくらいか。）
T中
（N山教授は学生思いの人だし、ハゲ山とか煽らずに真面目に書いたらこの手のジョークも評価してくれると思うけど。なんでこんな洒落にならない悪質なポスターにしちゃったんだろう）
T中
ましかし、大学では学生が病むなんて珍しいことではありません。F嶺さんがバカをやっていようとも私には関係のないことです。ちゃっちゃとお昼ご飯を食べて午後のK林ゼミに備えますか。
日付：２０XX年９月２６日（月曜日）
時間：１２：２５
場所：大学構内 教務課
内容：学生T中の昼休み２ 教務課に用事
T中
（と、K林ゼミの教室に行く前に教務課に寄り道していきます。）
T中
（教務課っていうのは、どこの大学にでもある学生用の事務手続き窓口です。例えば電車の定期を学割価格で買う時に必要な学割証を発行出来たり、また就職活動に使用する成績証明書の発行などもここで行います。）
T中
すみませーん。
教務課のおばちゃん
はいはい。ってあらT中ちゃんじゃない。何か用事？
T中
ええ、以前申請していた今学期分の特待生特典を受け取りにきたのですが。
教務課のおばちゃん
はいはい特待生特典ね。貴方はちゃんと通ってるわよ。はいこれ、今学期分の特典の食券。
T中
ありがとうございます。
T中
（はっはっは。特待生は食券を毎学期貰えるのである。F嶺さんから貰った分も合わせると一年分は食費に困らないな）
教務課のおばちゃん
はあ……みんながT中ちゃんみたいに優秀な子だったらいいのにねえ。
T中
え？ どうかしたんですか？
教務課のおばちゃん
今朝、またうちの備品を学生に取られちまったよ。
T中
備品を学生にとられた？
教務課のおばちゃん
うん。今朝の１０時前にいきなりドタドターって女の子が走ってきてね、とにかくアレを貸せってうるさくて。貸したらそのまま持って行っちゃったよ。で未だにその備品は返ってこない。
T中
それは大変だ。私が取り返してきますよ。とられた物ってなんなんです？
教務課のおばちゃん
いや、大した物じゃないから別にいいんだけどさ。ただの事務用のやつだし。でも、学生に貸すと絶対戻ってこないんだよね。
T中
備品貸出リストに一筆書かせればよかったじゃないですか。以前は備品を借りる人はリストに名前を書くのがルールだったでしょう？
教務課のおばちゃん
そのリストは廃止になったよ。
T中
なんでです？
教務課のおばちゃん
貸出リストなんてあると余計に仮パクが増える。名前さえ書けば勝手に持って行っていいと思ってる学生が多いからね。
T中
（……まあ確かに。ここの学生は皆バカ学生だからな）
教務課のおばちゃん
まあ教務課の備品には全部『教務課』って書かれたテープが貼ってあるし。見つけたら持ってきてくれるとうれしいねえ。
T中
解りました。お任せください。
教務課のおばちゃん
ありがとう。ほかに何か用事ある？ T中ちゃんならなんでも聞くわよ。
T中
いえ、今日はこれだけです。ありがとうございましたー。
教務課のおばちゃん
はいはい。どういたしましてー。
T中
（……とはいえ、借りパクされた備品なんて見つからんだろうな。まずどこの誰が持って行ったかも解らんし、結局何を取られたかも聞けなかったし）
日付：２０XX年９月２６日（月曜日）
時間：１２：４０
場所：大学構内 廊下
内容：学生T中の昼休み３ N山教授と会話
T中
あ。N山教授じゃないですか。こんちわー。
N山教授
ああ、君かね。
T中
私の入門経済学のレポートどうでした？ 先週の水曜日には提出しましたよ。
N山教授
読んだとも、君が一番乗りだったからな。内容に関しては、まあよく纏められている。だが面白みに欠けるので、満点とはいえない。
T中
面白味ですか。
N山教授
そうとも。面白味、つまり独創性がない。指定の教科書や類似の教科書に書いてあることをまとめただけで、君独自の視点や発想がない。
T中
確かにその通り、独創性はなかったかもしれません。でも、入門経済学のレポートって相対評価でしょう？ しっかり参考・引用文献を明示しながら書いている時点で独創性なんてなくても、成績上は私がナンバーワンになるんじゃないですか？
N山教授
……ま成績評価の話をすればそうなるんだが。
T中
わーい。私がナンバーワンだー。
N山教授
いいかT中君、そういう成績評価のことばかり考えてレポートを作るのは、本当はよくないなんだぞ。
T中
（あ。これ話長くなる奴だ）
N山教授
君達学部生が大学の講義を受ける上で最も価値あることは、それは僕のような学問の博士号を持つ人間と、課題を通じて言葉を通わせることが出来るということだ。それを成績評価ばかりを考えて無難なレポートにしていては、もったいないだろう。もっと僕に対して疑義をぶつけるような内容を書いてもいいし、むしろ今の学生に足りないのはそういうチャレンジ精神であってだな。そういう点で言うなら同じ特待生でもF嶺君の方が野心があるし独自の発想でレポートを書いている。君もF嶺君を見習って成績評価ばかり気にせず、独自の視点でレポートを書くべきであってだな。
T中
（うう。話が長い。でもN山教授は本当は学生思いの人です。成績ばかりを気にして無難なレポートを作る私にアドバイスしてくれます）
T中
……ん？ N山教授、その手に持ってるものって。
N山教授
ああこれか。さっき廊下で回収したものだ。バカ学生共が作った僕を愚弄するポスターだよ。
T中
（F嶺さんが作った奴だ。本当に校舎中に貼りまわってるんだな）
T中
私もそのポスター見ました。それ地味にクオリティ高いですよね。ちゃんと手書き禁止のルールを守ってパソコンで作ってますし。供給曲線が左シフトしてますし。成績評価がレポート制になって、多くの学生が単位取得を諦めている現状にぴったりですよ。
N山教授
そう力説するということは、このポスターを作ったのは君かね。
T中
そ、そんなわけないじゃないですか。私は好きですよ、N山教授の講義。
N山教授
ならば、このポスターにおける明確な間違いにも気が付いているのだろうな。
T中
え？ やっぱりどこか間違っているんですか？ まさしく独自の発想の需要・供給曲線だと思いますけど。経済学の専門家としては、このアカデミックジョークをどう捉えるんです？
N山教授
馬鹿もん！ そっちじゃない！ こっちじゃ！
T中
あ。そういうことか。髪の面積が少ない。
N山教授
わしゃこんなにハゲとらー－－ん！ なぜT中君のような優秀な学生でも気が付かないんじゃあああ！ 貴様らバカ学生には僕の頭がこう見えとるのかああああ！
T中
ははは、ははははは。
N山は叫んだっきり、怒り肩で廊下を去っていく。
するとN山が抱えてる紙の束から１枚の紙が滑り落ちる。
T中
N山教授、１枚落としましたよ。
N山教授
要らぬ。そんなポスター君にやる。
T中
いやポスターじゃないっすよ。
N山教授
・・・
T中
（行ってしまった……。てかこの紙はなんだ？）
T中
（この紙はおそらく、秘密のパターン表ですね。学生は課題をコピペできないと言いつつ、まさか１００名以上が受講する講義で受講者全員にバラバラの課題を出せるわけがない。課題パターンは限られているのです）
日付：２０XX年９月２６日（月曜日）
時間：１２：５５
場所：大学構内 K林教授の研究室
内容：K林ゼミが始まるまでの雑談
T中
（午後一発目の講義はK林ゼミです。月曜日は毎週K林教授が来るまでの時間、ゼミ仲間のM子先輩とくっちゃべるのが日常です）
M子
――ということがあってだな、君も入門経済学を取っているなら解るだろう？ 私は昨日は夜中２時過ぎまでレポートを書いていたよ。まったくN山教授の気まぐれにも困ったものだな。まさか過去問暗記の激ヌルテストから、レポート制にしてくれるなんて。
T中
へー。で、先輩は無事レポートを提出できたんですか？
M子
提出したとも。ただし私はレポートを提出する時、こう言った。
T中
なんです？
M子
『N山教授。昨日は迅速な対応ありがとうございました。』とな
T中
って、夜中１２時に教授にメール送っとんのお前かーい。一斉送信メールの中でピンポイントで謝礼要求されてましたよね。
M子
うん私も焦ったよ。でも、出来なかったんだもん。今度教えてくれよ、パソコンソフトで上手い図を作るやり方をさ。
T中
（意外とパソコン弱いんだよなこの人。）
M子
そういえばＴ中君はレポートを提出できたのかい？ どうせ君も私と同じ提出期限３分前提出だろう？
T中
私は先週の水曜日には提出しましたよ。
M子
優等生か君は。
T中
特待生ですから。ほら見てください。今学期分の食券です。
M子
半分私によこせ。毎日デラックスラーメン食べちゃる。
T中
あげませーん。１枚たりともあげませーん。
T中
（などと先輩と遊んでいるとやがてK林教授がやってきて）
K林教授
うぃーす。K林が来たぞよー。そろそろゼミを始めるぞー。
T中
（こうしていつものようにK林ゼミが始まるかと思われた。）
T中
（事件は、その時に起こったのです。）
？？
な、な、ななあああああああああ！？ あんのクソ非常識学生があああああああああああああああああ！！
K林教授
なんかすごい声が聞こえたわね。
T中
ええ。
M子
あ、足音が近づいてきますよ。
ドドドドドドド！
N山教授
K林教授うっぅぅぅぅ！！ 確かこのゼミにM子という学生がいましたよねええ！？
K林教授
え、ええ。いますけどソコに。
M子
ひっ、な、なんですか。私に用事ですか。
N山教授
とぼけるな貴様あああああああ！！ ふざけて真似をしおってえええい！？ ただですむと思っているのかあああああ！！
T中
なんです？ 何が起こったんです？
N山教授
コレを見ろ！！ 全員コレを見ろおおおおお！！
K林教授
ふむ。察するにコレはうちのM子がN山教授に出したレポートかな？
T中
入門経済学のレポートですね。
M子
こ、これがなんだっていうんですか。私ちゃんと提出したじゃないですか。『迅速な対応ありがとうございました』って言ったじゃないですか。
N山教授
レポートの一番後ろのページだ！！
T中
一番後ろのページ？
M子のレポートを最後のページまで捲ってみるとそこには。
K林教授
！
T中
！
M子
！？
M子のレポートの最終ページには、『ハゲ山よ』と題された例のポスターが挟まれていた。
N山教授
貴様！ 僕を愚弄するためにこんなものを最終ページに差し込みよったな！
M子
いやいやいやいや！ 違いますよ！ 私こんなの絶対挟んでないです！
N山教授
黙れバカ学生！ このレポートは貴様が作ったものだろう！ このふざけたポスターを作ったのも貴様だろう！ 貴様が校舎中に貼って回ったんだろう！ そしてダメ押しにレポートにまで挟みこんだんだろう！
M子
違います違います！ こんなポスター作ってないですし、校舎に貼ってもないですし、レポートに挟んでもないです！
N山教授
黙れ！ 貴様はもう退学処分にしてやる！
M子
ええええええええええええええええええ！？！？
N山教授
K林教授もそれでいいですかな！？
K林教授
ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。確かにうちのM子は非常識学生ですが、さすがにそこまでするとは思えません。何か、M子がやったという証拠があるのですか？
N山教授
証拠ならある！
K林教授
ええ、それはどんな？
N山教授
僕が開講する入門経済学の受講者数は約百名。その中で今回のレポートを提出したのは約七十名。そのレポートの中で僕を愚弄するこのポスターを挟み込んだのは、ただ一人。
N山教授
そこのM子学生のみなのである！！
M子
なっ！？
K林教授
なぬ！？
T中
……。
N山教授
更に！ M子学生は夜中１２時に僕にメールをしてくるという、まったくもって非常識な学生である！ こんな悪質なポスターを作成し、校舎中にばらまき、あまつさえレポートに挟み込むという不届き者は、受講生の中で最も非常識な学生、つまりM子学生！ 貴様以外にありえない！
T中
……。
N山教授
よって、M子学生、貴様を即刻退学処分とする！！
M子
そそそ、そんなぁ！ なんとかしてくださいK林教授！
K林教授
う、うーん。これはもう、正直に罪を認めるしか。
T中
……。
N山教授
さあM子学生！ すぐに教務課へ行って退学手続きをするぞ！
M子
うわあああん！ やだよおお！ どうしでええええええ！ 私の大学生活がああああん！ 人生の夏休みがああああああああん！
K林教授
あらあら。どうしましょ。どうしましょ。
T中
（……N山教授は怒り心頭で我を失っている。M子先輩は動揺して大泣き中。K林教授もオロオロしたまま頼りになりそうにない）
T中
（色々と疑念はあるけど、ひとまずM子先輩は助けとこ。さすがにかわいそうで見てられんし）
T中
えーっと、ちょっと待ってください。私知ってます。そのポスターを作ったのはM子先輩じゃないですよ。
N山教授
なに？ なら誰が作ったのかね？ このM子ではないという証拠があるのかね？
T中
証拠も何も、私それを作った本人から直接話を聞きましたし。
N山教授
作った本人？ それは誰かね？
T中
学生のF嶺ですよ。ほら知ってるでしょう？ 私と同じ特待生で入門経済学も受講しています。
N山教授
F嶺だって？ おいおいおいバカなことを言うな。だって彼女は特待生で一番優秀な学生だぞ。
T中
いや私もおかしいと思うんですが、彼女、なんか病んでるみたいで
N山教授
病んでいる？ 何をバカな。彼女はさっきも僕と一緒にこのポスターを回収していたんだぞ。
T中
（え……？）
N山教授
入ってきたまえF嶺君。
ガラガラと教室の扉が開くと、そこには。
F嶺
……。
T中
（すごくばつの悪そうな顔をしたF嶺さんが立っていた。）
K林教授
どういうこと？ F嶺さんがやったの？ それともやってないの？
N山教授
いえK林教授、F嶺は成績優秀な特待生ですぞ。こんなバカをやるとは思えませんし、さきほども僕と一緒にこのポスターを回収していたところです。彼女が犯人だなんてありえません。
F嶺ははじめこそばつの悪そうな顔をしていたが、N山に擁護されると段々と顔つきを変えてゆき・・・
F嶺
そ、そうですわよ！ わたくしはこんなバカげたポスター作っていませんわ！ わたくしはむしろ、N山教授のためを思って一緒に回収していましてよ！
T中
（コイツ、開き直りやがった……）
N山教授
ということはやはり！ 犯人はM子なのである！ 即刻退学処分を命ずるのである！
F嶺
そうですわそうですわ！ 退学ですわ！
M子
違うよ！ 信じてくれよ！ 私はやってないんだよ！
K林教授
あらあら、どうしましょ、どうしましょ。
T中
（こうして再びM子先輩が責められ、K林教授がおろおろする構図に逆戻り）
T中
（もちろん、このままにしておくわけにはいかない。M子先輩は私達K林ゼミの大事な仲間だ。このM子という人は、お気楽でゲーム好きでヌルイ講義を過去問暗記で乗り切って、レポートは前日に徹夜して仕上げる、典型的なぐーたら大学生だが。絶対に人をバカにするようなポスターを作る人じゃない。ましてそのポスターを自分のレポートに挟んで提出するだなんて、そんなことをする人じゃない。）
T中
（私は彼女を助けるべきだ。なぜM子先輩のレポートにあのポスターが挟み込まれたかは解らないが、このポスターの作成者がM子先輩ではないことだけは、一目でわかる客観的な証拠があるのだから）
T中
待ってください。このポスターを作ったのは絶対にＭ子先輩じゃありません。
N山教授
む。まだ言うのかね。そこまで言うなら証拠を出したまえよ。M子君が犯人ではないという証拠をな。
T中
このポスター自体が証拠です。このポスターに描かれた内容がM子先輩が犯人ではないことを示しています。
F嶺
どういうことですの？ なぜポスターが証拠になりますの？
T中
何故なら、このポスターでは――――
回答チェック
回答して正解だったら進めてね
名探偵T中によるヒントコーナー
・・・
・・
・
T中
ヒントはポスター内に使われている図表にあります。すごく整った経済学の図表が載っていますね。どう見ても手書きで作ったものではありませんし、そこそこパソコン操作ができる優秀な人じゃないと作れませんよね。
T中
そういうことを踏まえて、M子さんの状況を考えてください。M子さんは何故夜中にN山教授にメールを送ったんでしたっけ？
・
・・
・・・
ヒントコーナー終わり
T中
何故なら、このポスターでは需要・供給曲線の図がパソコンで作られているからです。
F嶺
な。
N山教授
ぬ。
M子
ふむん？
K林教授
……。
N山教授
ふむ、確かにこのポスターはパソコンで作られたものだろうが、それがどうしてM子ではないという証拠になるのかね？ バカ学生とてパソコンくらい持っているだろうに。
T中
N山教授。思い出してください。昨晩、非常識なバカ学生から来たメールの内容を。
N山教授
ええ？ 昨日のメールの内容は確か、あれだ。自分はパソコン操作ができなくて図を作成できませんので、図のみ手書きでいいですかという内容だったが。
K林教授
ム。ということは。
N山教授
ああそういうことか。つまりM子学生は
K林教授
そもそもパソコンで図を作成することができない。よって、M子にはこのポスターを作成する能力がないということです。
T中
（K林教授め。いいところだけ持っていきやがって。）
N山教授
む、むぐぅ。そういうことになるな。
M子
そうだよ！ 私はそもそもこんなの作れないんだよ！ むしろ作り方を教えてくれよぉ！
K林教授
皆様、私の名推理を解っていただけましたかな？ 解ったなら早くうちのM子の退学処分を取り消しにしていただきたい。
T中
（そうだそうだー取り消しにしろー。いけーK林教授ー）
F嶺
お待ちください。わたくしはM子さんが犯人である新たな証拠を見つけましてよ。
N山教授
なに？ どういうことかね。他に証拠があるのかね？
T中
（な、なんだ？ まだあるのか？）
F嶺
ええあります。まずは皆さん、M子さんのレポートの表紙をご覧ください。
N山教授
うむ。学校指定のフォーマットの表紙だ。何も変な所はないように見える。
K林教授
氏名やレポートタイトルだけでなく、課題内容まで書いてあって非常にわかりやすい表紙だと思います。
F嶺
レポートの『個別課題』には何と書いてありますか？
N山教授
『供給曲線が左シフトする時の説明』だな。僕が出した課題だ。
F嶺
ここで校内にバラまかれたポスターの内容を見てください。特に図の部分だけピックアップしますわ。
K林教授
ほう。
F嶺
このポスター内に描かれた需要・供給曲線においても供給曲線が左にシフトしていませんか。赤線で示した部分にしっかりとそう明記されてあります。
N山教授
確かに。憎たらしいが左シフトしている。僕が成績評価方法を定期テストからレポートに変更したという具体例で、単位に関する供給曲線が左シフトしたと説明している。
F嶺
これはつまり。
K林教授
奇しくも、ポスターに描かれた内容とM子君のレポート課題の内容が一致したということかな。
F嶺
さすがK林教授、ご名答ですわ。更にここから重要なことがあります。M子さんが犯人である決定的な証拠です。
N山教授
それはなんだ？ 早く言いたまえ。
F嶺
それは、この入門経済学のレポートの課題内容は、学生同士の写し合いを防ぐため、受講者それぞれでバラバラだったということです。
K林教授
な。
N山教授
ぬ。
M子
えっ、えっ・・・？
T中
……。
F嶺
受講者全員がバラバラであるはずの課題内容と、誰かさんの作ったポスターの内容は全く一致しています。こんな偶然がありますかしらねえ？
N山教授
た、確かに。そんな偶然があるのか。
F嶺
したがってわたくしの推理はこうです。
F嶺
M子さんは昨晩、パソコンでの図作成に確かに苦しんだ。自分なりにパソコンで図を作ってみるものの、その出来栄えに納得できず、N山教授へ手書きでもよいか尋ねるメールを送った。N山教授はそのメールに対して寛大な心でレポート内の一部の図を手書き作成することを許可いたしましたが、M子さんはそのメール内の『こんな時間に回答する私に感謝をするように。』という一文に腹を立て、このようなポスターを作成しN山教授へ仕返しすることにした。
M子
そ、そんな！ なんでだよ！ なんでせっかく手書きを許してもらった私が仕返しするんだよ！ 動機がないよ！
F嶺
黙らっしゃい。動機なんて貴方がバカ学生だからでしょう。それに、貴方がN山教授を愚弄するポスターを『パソコンで』作成したことについては明確な理由があります。
M子
な、なに？
T中
（・・・）
F嶺
だってパソコンでポスターを作成すれば、絶対に貴方は犯人だと疑われませんもの。貴方はパソコンで図を作る能力がないという名目でN山教授にメールしていますから、自動的に容疑者から外れる。賢しくもM子さん、貴方はそれを逆手にとって自分自身のうっ憤を晴らそうと、N山教授を愚弄するポスターをばらまいた。
M子
そ、そんな……
F嶺
話を戻しますが、そうやってパソコンで作成したN山教授を愚弄するポスターの内容と、あなた自身に出された課題の内容が、共に『供給曲線を左シフトさせている』という点で共通しているのですから、もう貴方が犯人で決まりでしょうに。
N山教授
やああっぱりM子学生、貴様が犯人かあああああああああ！！ うおおおおおお！！
M子
ひぃぃ！
K林教授
あらあら、どうしましょ、どうしましょ。
T中
（・・・やれやれ。強引なF嶺にすっかり乗せられている。ポスターの内容と課題の内容が一致していたとしても、そんなの何もおかしなことじゃないだろうに）
T中
（このままF嶺劇場を見ているのは癪ですし、さくっと証拠を突きつけちゃいますか。
T中
いえ、F嶺さん。仮にM子先輩がパソコンで図を作成できたとしても、このポスターとM子先輩の課題内容が共に『供給曲線を左シフトさせている』で一致していることは、別におかしなことではないですよ。M子先輩を犯人とする理由にはなりません。
F嶺
あら？ どうしてですの？ 課題内容はコピペ防止のため、受講する学生個々人でバラバラでしょう？ 入門経済学の受講者数は約百名でしょう？ ということは課題内容も約百個あるのですから、Ｍ子さんの課題内容とポスターの内容が一致することは、偶然じゃありえないことですわ。
T中
ええ、課題内容はそれぞれバラバラと言われていましたね。受講者数も約百名でしたね。
T中
しかし――
回答チェック
回答して正解だったら進めてね
名探偵T中によるヒントコーナー
・・・
・・
・
T中
昼休み、私がN山教授と話している時、N山教授は秘密のリストを落としましたよねぇ。あれは一体なんだったんですかねぇ。AとかBとかCとかDとか書いてましたけど。
T中
需要・供給曲線など小難しい経済学の話が分からなくても大丈夫ですよ。要は、受講生が百名を越える大学の講義で、学生ごとに個々別々の課題を出せるかっていう話です。教授側も採点が大変ですから、所詮学部生向けの講義でそんな完全に個々別々の課題を出しますかね。
・
・・
・・・
ヒントコーナーおわり
T中
元々課題のパターンは限られていたんです。もしも犯人がM子先輩と同じ入門経済学の受講生なら、1/4の確率で犯人とM子先輩の課題内容は一致します。そうでしょう、N山教授。
F嶺
・・・え？ え？ そうなんですの？
N山教授
・・・
K林教授
お・・・？
M子
よ・・・？
N山教授
・・・その通りだ。何故、T中君が課題パターンの件を知っているんだ。
NT中
さっき廊下で話した時、N山教授はこの紙を落としましたよ。
N山教授
そ、それは課題の提出確認表だ。
T中
ええ、誰がレポートを提出したか記録するためのリストですよね。そして提出日の横の欄に『課題』と書かれた欄がある。課題欄の内容はアルファベットのABCDが並んでいますが、これは成績評価の点数としてのABCDではなく、学生に課した課題パターンを示すABCDでしょう。成績評価の記号であるならば、ABCDがリストの上から順に綺麗にループするはずありません。
N山教授
う、うむ。確かにその通りだが。
T中
あとここからは推測ですが、今回の課題の内容は『需要曲線と供給曲線がそれぞれ左右にシフトする要因』で４パターン作ったんじゃないですか。つまり需要曲線が右にシフトする要因を述べよがパターンA、需要曲線が左にシフトする要因を述べよがパターンB、供給曲線が右にシフトする要因を述べよがパターンC、供給曲線が左にシフトする要因を述べよがパターンD、という感じで。
N山教授
まさにその通りだ。
K林教授
ということはつまり！
T中
（うわ、いきなり入ってきたな）
K林教授
ということはつまり、犯人が入門経済学の受講生の中にいると考えるなら、M子君の課題内容と犯人の作ったポスター内容が一致していたとしても、何もおかしなことはありません。なにせ元々課題は４パターンしかなく、２５パーセントの確率で学生同士の課題は一致するのですから。現にM子君とF嶺君の課題内容だって共にパターンＤ、つまり『供給曲線を左シフト』させることで一致しています。課題内容とポスター内容が被っただけでM子君を犯人扱いするのなら、受講生の２５パーセント、つまり約２５名が犯人ということになります。そんなのおかしな話じゃないですか。
M子
さすが！ さすがです名探偵K林教授！ このまま私を退学処分から救ってください！
T中
（K林教授め、またいい所を持っていく。名探偵は私だろうに）
N山教授
む、むぐぅ、確かに。M子君へ出した課題内容とポスターの内容が一致したとしても、おかしなことはない。M子君を犯人とは言い切れないか。
M子
そうですよ！ 絶対私はこんなポスター作ってないんですよ！
T中
（さあこれで事件は解決か。もうM子先輩を犯人にできる証拠はないだろう）
F嶺
し、しかし！ わたくしは実際にM子さんがこのポスターの束を抱えて走っているところを見ていましてよ！
M子
なっ！？
T中
（まだ続くんかーい。F嶺さぁん、いい加減罪を認めてー）
N山教授
どういうことかな。説明してくれたまえF嶺君。
F嶺
今朝、９時５０分頃。わたくしはたまたま教務課の前にいました。すると、すごい勢いでM子さんが教務課に向かって走ってきたのです！
F嶺
そして教務課でM子さんはあるモノを借りていきました。
N山教授
あるもの？
K林教授
あるものとは？
M子
？
T中
（あーそういえばなんか教務課のおばちゃんが言ってたな。学生が借りパクしていったって）
N山
F嶺くん、そのあるものとは何だい？
F嶺
ええ、それは画鋲ですわ！
K林教授
なぬ。画鋲とな。
M子
え？ え？ 画鋲なんて借りてな――
F嶺
わたくしの推理はこうです！ M子さんはポスターの束を抱えて学校にやってきた！ それを人目に付かない内に校内に貼り付けようとした！ しかし！ 悪事に急ぐあまりM子さんはポスターを張るテープや画鋲などの道具を一切持っていなかった！ そこで教務課に駆け込み！ 画鋲を借りるという行動をとった！
M子
そんな！
T中
（そんなわけあるかーい。出鱈目が過ぎるぞF嶺おぅい）
K林教授
ふむ。残念だが、私も今朝M子君が大慌てで教務課から出ていく姿は見たな。
T中
え？
N山教授
見たんですかK林教授。
K林教授
ええ確かに見た。うちの学生が走っているなーと思ったらM子君だった。確かに紙の束を抱えていたし、血相を変えて走っていた。
F嶺
でしょう？ ということはN山教授、このポスターを作り、校舎中にばらまいた犯人はM子さんで間違いありませんこと？
N山教授
うーむ。確かにそういうことになるか、K林教授が実際に見たというなら仕方ないだろうし。
T中
待て待て待てーい。M子先輩が実際に画鋲を借りたかどうかは分からないでしょうがーい。本人に何を借りたか今ここで聞けばいいじゃないですか。
M子
そ、そうだ！ 私が借りたのは――
F嶺
でっへええええい！ 黙らっしゃああああああい！！ 犯人の供述に意味なんてないでしょうがああああい！！
T中
（おいおいおいF嶺。遂に無理矢理M子先輩の言葉を遮りやがったな。えげつねえ悪人顔してやがんぜ。あ、それは私もか）
F嶺
大体において！ わたくしがM子さんが教務課に駆け込む姿をみたのは本日午前９時５０分頃！ 入門経済学のレポート提出期限ギリギリの時間ですわ！ M子さんはギリギリ提出だったんでしょうに！ ギリギリなのに教務課に来る理由なんてないでしょう！
N山教授
それは確かにその通りだ。
F嶺
したがって！ M子さんが教務課に来た理由は一つ！ ポスターを貼る画鋲を借りパクしに来たんですわ！
M子
そ、そんなぁ。絶対違うよぉ！
F嶺
おーっほっほっほ！ M子さん！ もう逃げられませんわ！ おとなしく白状してくださいましー！ 自分がやりましたと言ってくださいましー！
T中
（・・・いろいろと矛盾が凄い。そもそも実際にポスターが張り出された時間と、M子先輩が教務課を訪れた時間は一致しているのか。そこが解らない）
T中
（しかし、F嶺の強引なトークによって場はすっかり混乱している。今から精密な時刻検証をしても、F嶺の勢いに負けてM子先輩が犯人にされるかもしれない。）
T中
（よってここは、F嶺の主張の最大の矛盾を突きます。すなわち、M子先輩が教務課で借りたものは画鋲ではない、ということ）
T中
（さあ名探偵、考えどころだぞ。レポート提出ギリギリの時間に、なぜM子先輩は教務課に来たのか。何を借りたかったのか。大事なレポートを抱えて、後はN山教授に提出すればいいだけなのに、何故教務課の備品を借りる必要があったのか。その備品は一体何なのか）
T中
（その備品とは――――）
Q.M子が教務課から借りた備品は何？
回答チェック
回答してね
名探偵T中によるヒントコーナー
・・・
・・
・
T中
M子先輩は昨夜遅くまでレポートを作成していたようです。それを自分の家のプリンターで印刷しました。
T中
簡単なレポートなのでおそらく枚数は３，４枚程度です。
T中
ここで疑問です。イメージしてください。普通学生は印刷したレポートを、そのまま教授に提出しますかね？ 印刷したA４用紙をそのまま渡しますかね？
T中
レポートが複数枚になった時って、絶対に最後にアレをしますよね？ 几帳面な学生は筆箱に入れているかもしれませんが、M子先輩は持ってなかったんじゃないですか？
T中
ここまで言ったら解るでしょう。アレです。M子先輩はアレを借りに教務課へ駆け込んだんです！
・
・・
・・・
ヒントコーナー終わり
T中
ホチキスです。M子先輩はホチキスを借りに教務課へ行ったんじゃないですか？
N山教授
な。
K林教授
ぬ。
F嶺
ぐっ！
M子
そうさ私はホチキスを借りに教務課へ行ったんだよ！ レポートを提出する直前になってホチキス留めしてないことに気が付いたから、急いで教務課へホチキスを借りに行ったんだよ！
F嶺
待った！ 容疑者M子は完全なる嘘をついていますわ！ わたくしは彼女が画鋲を借りている所を実際に見ましたから！
T中
異議あり！ M子先輩が借りたのはホチキスです！ M子先輩は典型的なバカ大学生ですが、他人をバカにするポスターを作る人じゃありません！
F嶺
ならば証拠提出を求めます！ M子さんが教務課からホチキスを借りたという完全なる証拠をお出しなさい！
T中
てやんでい！ その証拠ってのは――！
回答チェック
回答して正解だったら進めてね
名探偵T中によるヒントコーナー
・・・
・・
・
T中
二択問題です。よく思い出してください。私は今日のうちのどこかで借りパクされた備品について話していたはずです。その時、あのおばちゃんはなんて言ってましたかね？ 備品貸し出しリストは今も機能してるって言ってましたかね？
・
・・
・・・
ヒントコーナー終わり
T中
今、M子先輩はそのホチキスを持っているはずです。
M子
・・・え？
F嶺
あんら？ 本当に持っているのかしら？ 不安そうな顔をしておられますわよ。
N山教授
しかし、M子君が本当に教務課のホチキスを持っているなら、M子君がレポート提出時間ギリギリに教務課へ駆け込んだ理由にも説明がつく。M子君はレポートを留めるためのホチキスを借りようと教務課へ駆け込んだのであって、ポスターを貼るための画鋲が欲しかったわけではない。つまり彼女はポスターをばらまいた犯人ではないということになる。
K林教授
本当に持っているの・・・？
T中
とにかく鞄の中を探してください。絶対にありますよ。
M子
うん探してみるけど。確か私は教務課に返した気がするんだよな。
M子は自分の鞄の中をゴソゴソと漁り始める。すると・・・
M子
ん？ なんだこれ。ゴミかな。
T中
（・・・ゴミ？）
更に鞄の中を探ると・・・
M子
あ。あったわ。このホチキスだ。教務課の人に返したと思ってたらすっかり忘れてたわ。
K林教授
ということは？
N山教授
犯人はM子君ではない、ということか。
T中
そうです。初めから言ってるじゃないですか。
K林教授
ということは、真犯人は。
N山教授
・・・ジトー。F嶺君、君かね。
T中
（まあそうなるわな。一番怪しいし、昼休み自分で作ったって言ってたし）
F嶺
ちちち、違いますわ！ 何故わたくしがこんなバカげたポスターを作る必要があるんですの！？ わたくはバカ学生と違って、成績優秀で特待生ですわよ！？
N山教授
うむぅ。それはそうだなぁ。F嶺君は特待生だしなぁ。こんなことするわけがない。
K林教授
同感です。F嶺君は特待生で授業態度もいいし、こんなことをするとは思えない。
M子
まあ、私もそう思います。F嶺さんは特待生ですし絶対にこんなことしません。真犯人は別にいるんじゃないですかね。ここの学生、バカばっかりですし。
F嶺
そ、そうでしょう？ わたくしが犯人なわけないのです。
T中
（あ、このままいけばF嶺助かる流れだ。どうしよっかなー。助けようかなー、それとも地獄に突き落とすかなー）
T中
（まいっか今のF嶺はクソ野郎だし。現実つきつけちゃおーっと）
T中
いいえ犯人はF嶺さんです。成績優秀な彼女がこんなバカなことをやる動機ならあります。もうわかりきってます。
F嶺
な、なんです・・・？ わたくしにバカなことをやる動機なんて・・・ないですわよ？
T中
それはF嶺さん、貴方が今学期から〇〇〇ではなくなったからだ――！
T中のセリフの〇〇〇にあてはまる言葉を入力しよう。
回答チェック
回答してね
名探偵T中によるヒントコーナー
・・・
・・
・
T中
まあもうヒントなんてなくても解るでしょ。このFラン大学で彼女のような高飛車なお方が自分のプライドを守る方法は一つなんです。自分は他の学生とは違うという特別な肩書が彼女の学生生活の全てなんです。
T中
F嶺、急に昼休みに食券全部くれたりしたじゃないですか。F嶺自身『もうどうでもよくなった』って言ってたじゃないですか。
T中
もう解るでしょう。F嶺は今学期はもう〇〇〇じゃないんですよ。
・
・・
・・・
ヒントコーナー終わり
T中
F嶺さん、それは貴方が今学期から特待生じゃなくなったからだ。
N山教授
！
K林教授
！
M子
！
F嶺
な・・・
T中
F嶺さん、貴方は今学期から特待生じゃなくなった。前期の成績で特待生の成績基準を満たせなかったんでしょう。それで自暴自棄になって、バカなポスターを作って自分で退学になろうとした。
N山教授
・・・そ、そうなのかい？
F嶺
・・・。
F嶺
・・・ええ。そうですわ。わたくしが犯人ですわ。あのポスターを作ったのも校舎中にバラまいたのも、全てわたくしですわ。
K林教授
そんな。
F嶺
だって、わたくしはもう特待生ではありませんの。わたくしはこのFラン大学のバカ学生の内の一人に過ぎませんの。もう、この学校に通う意味も、生きる意味もありませんわ。
N山教授
そ、それは言いすぎだよ。F嶺君、君はまだ若い、こんなことで生きる意味がないだなんて、言っちゃダメだ。
F嶺
いえいいんです。わたくしはもう、この学校を去ります。
F嶺
みなさん、もう何も言わないでください。N山教授、すみませんでした、わたくしは退学処分を、受け入れます。
―――
――
―
F嶺の悲痛な声に、空気が沈みかけたその時だった。
一人の女性の声が疾風のように空気を切り裂いた。
M子
なんて馬鹿なことを言うんだ！
―
――
―――
N山教授
！
K林教授
！
T中
！
F嶺
？
M子
F嶺さんダメだよ！ この大学生活を――言うなれば人生の夏休みを！ 途中で放棄するだなんて！ そんなのもったいなさすぎるよ！
F嶺
人生の、夏休み・・・？
M子
そうだよ！ 大学生活なんて所詮は人生の夏休みに過ぎないんだ！ 自分は成績優秀な特待生じゃないといけないとか、いいレポートを仕上げないといけないとか、そんな真面目になる必要はないんだよ！ だって所詮はただの夏休みなんだから！ 自分の好きなように過ごせばいいんだよ！
F嶺
そんな・・・。
M子
後から自分の人生を振り返った時、楽しい大学生活だったって言えれば、それでいいんだよ！ F嶺さんは今大学を辞めて、それで後から振り返った時、楽しい大学生活だったって言えるの！？ 夏休みを途中で放棄して、それで今後の人生で後悔しないの！？
F嶺
・・・
M子
辞めるべきじゃないよF嶺さん！ 図太く行こうぜ！ 開き直って行こうぜ！ 今からでも遅くないさ！ N山教授に謝って反省したフリだけして、また人生の夏休みを再開しようぜ！
F嶺
・・・
M子
私達バカ学生と一緒に人生の夏休みを満喫しようぜ！
K林教授
・・・ま、そういう考え方もある。F嶺君、たった一度の失敗で人生を捨てるものじゃない。君は元々成績優秀だったろう。私からもN山教授にお願いして、退学処分を撤回してもうように働こう。
F嶺
ええ。ええ、ありがとう、ございます。
N山教授
F嶺君、君が色々と思い詰めているということは解った。退学処分は撤回だ。今回の一件は水に流しておこう。その代わり、また元気になって、M子君の言うように大学生活を大いに楽しみたまえ。そして、いつものように攻めたレポートを出してくれたまえ。成績上は特待生ではなくなったかもしれないが、君の学問に対するチャレンジ的な精神は、この大学で最も優秀で模範的であると思うぞ。
N山教授
このポスターの内容も、僕の頭頂部が剥げている所以外は、ユニークで面白いし、アカデミックなユーモアとして評価できるからな。
F嶺
ありがとうございます。ありがとうございます。皆さん、ありがとうざいます。
サイコパスT中
F嶺ガンバレー。私も応援してますよー。また一緒に学食でうどん食べましょうねー。
F嶺
ありがとうございます。T中さんも頑張ってください。（アレ？ T中さんだけ全然気持ちが籠ってない気がしますわ・・・）
こうしてF嶺は自らの犯行を認め、涙ながらに改心の道をたどるのであった。
・・・
・・
・
T中
（――がしかし。まだ解けていない謎が１つ残っています。一応そっちも解消しておきましょうか）
T中
N山教授、ポスターを一番最初を手に入れたのは何時ごろですか？
N山教授
え？ 確か、９時３０分頃だが。
T中
校舎に貼ってあるポスターを回収したんですか？
N山教授
いや、初めの一枚は学生が教授室に持ってきたんだ。ある男子学生がレポートを出すついでに持ってきて、校舎中に貼ってあると教えてくれた。
T中
その初めのポスターは教授室内のどこに置きましたか？
N山教授
え？ えーっとたしか、別に何も考えず、とりあえず机の上に置いたが。忙しかったし。
T中
M子先輩がレポートを提出したのは何時何分？
M子
９時５７分、提出期限３分前に直接手渡しした。さっきそう言っただろうに。
T中
それはレポートをホチキス留めした後に提出しましたか？
M子
そりゃそうさ。わざわざ教務課までホチキスを借りに行ったんだぞ。しっかりと自分のレポートをホチキス留めしてから提出した。
T中
ホチキスを留める時、慌てたりしませんでしたか？
M子
？ まあ、提出時間ギリギリだから多少慌ててたけど、ページの順番とかは確認したし、間違えてはないと思うけど。
T中
一発でばっちり留めましたか？ やり直したりは？
M子
し、していないが。ホチキスなんて一発で留められるだろう。
T中
F嶺さん。今朝、教務課に駆け込んでいくＭ子先輩を見たって言いましたよね？
F嶺
ええ、見ましたわ。
T中
その時、M子先輩にポスターを１枚渡したりした？
F嶺
はい。よくお分かりですね、その通りです。見知った顔でしたのでM子さんにも、１枚ポスターをお渡ししましたわ。
T中
（・・・ということは、最後の一つの謎も、たぶん解けた。）
M子
そんなことよりN山教授ぅ！ 次の私のレポート免除してください！ 私が名探偵で真犯人を見つけたんですから！ 名探偵M子のおかげで真犯人が見つかったんですから！
N山教授
ああ忘れてた、君は非常識学生だから追加課題があるんだった。
M子
ええ！？ 私に追加課題！ どうして！？
N山教授
丁度いいからF嶺君と一緒に課題に取り組みたまえ。二人共それで許してやろう。
M子
そ・そんなー－－－！
T中
（――けど、最後の種明かしをする必要は、今はないだろう）
T中
（ここは何の変哲もない日本のFラン大学、今日も平和でバカな日常が過ぎてゆくのです・・・）
日付：２０XX年９月２６日（月曜日）
時間：１４：４０
場所：大学構内 K林教授の研究室
内容：最後の種明かし
K林教授
さて、M子君も帰ったことだし、最後の種明かしを聞こうか、T中君。
T中
最後の種明かし？
K林教授
ああ。優秀な君は最後の謎に気が付いているんだろう？
T中
・・・
K林教授
すなわち、なぜM子君のレポートの一番後ろのページに例のポスターが挟み込まれていたのか。
T中
ええ。その謎はもう解けました。しかし、特に種明かしをするほど重要なことではありませんよ。
K林教授
ここはK林なんでもゼミナールである。大したことなくても、謎である以上は解いておきたまえ。
T中
・・・
T中
M子先輩は教務課でホチキスを借りる前、一度F嶺に会っているんです。
K林教授
ああ、F嶺本人がそう言ってたな。
T中
そして、F嶺はM子先輩にポスターを１枚渡した。
K林教授
つまり、そのタイミングでM子君は、まだホチキス留めしていないレポートと、F嶺作のポスターを同時に持っていることになる。
T中
M子先輩は教務課でホチキスを借りて、慌てて自分のレポートをホチキス留めしたから、誤ってF嶺からもらったポスターを自分のレポートに挟んだ。
K林教授
――という推理が一般的だが。違う。
T中
そう、違うんです。何故なら、M子先輩の鞄から出てきたこのゴミクズ。
T中
広げると例のポスターなんです。
K林教授
ほう。
T中
つまり、M子先輩はF嶺からポスターを受け取った後に、それを丸めてゴミクズにしているんです。
T中
したがって、M子先輩自身が誤ってポスターを自分のレポートに挟み込んだ、という推理は成り立たない。
K林教授
確かに。では、なぜM子君のレポートに例のポスターが挟まったのかな？
T中
・・・犯人はN山教授なんですよね。
K林教授
どうしてかな？
T中
さっき、N山教授は一番初めにポスターを手に入れたのは９時３０分頃だと言っていましたね。
K林教授
ああ、その１枚は机の上に置いたとも言っていた
T中
すると９時５７分にM子先輩がレポートを提出した時点で、N山教授は自分の手元にM子先輩のレポートがあり、そして机の上にポスターが１枚置いてある状態となります
K林教授
ああ、その通りだな。手元にM子君のレポート、机の上にF嶺君のポスターの状態だ。
T中
その状態で何らかのイレギュラーが発生します。そのイレギュラーによりN山教授はM子先輩のレポートの挟み直しを行ったんです。つまりM子先輩が留めたホチキスの針を一度抜いて、N山教授自身で挟み直しを行った。例のポスターはその時、教授室の机の上に置いてあった１枚が、誤って挟み込まれてしまった。
K林教授
ふむ。N山教授の部屋にあったポスターをN山教授自身が誤って挟んでしまったと。
T中
ええ。その通りです。
K林教授
では名探偵よ、満を持して聞こう。そのイレギュラーとは何のことかな？ なぜN山教授はM子君のレポートのホチキスを挟み直したのかな？ M子はしっかり一発で留めたと言っていたぞ。
T中
そこが今回の一番どうでもいい謎です。
K中
どうかな。我々にとってはそうでも、観客からすればコレが最大の謎かもしれん。
T中
では、あっさりと種明かしをしてしまいましょう。
K中
やってくれたまえ、名探偵。
T中
M子先輩は、ホチキスをレポートの〇〇に留めて提出していた。
Q.T中のセリフの〇〇にあてはまる言葉を入力せよ。
回答チェック
回答してね
名探偵T中のヒントコーナー
・・・
・・
・
T中
ヒント無しです。真の名探偵ならここはヒント無しで解けます。漢字二文字とだけ言っておきましょう。
・・
・・・
ヒントコーナー終わり
T中
M子先輩はホチキスをレポートの右上に留めていたんです。
K林教授
だろうな。私も彼女のレポートを見た時点で気づいていたよ。明らかに一回失敗してやがんだよ、留めるところ。レポートは絶対左上で留めるもんなんだよ。
T中
そうなんです。N山教授のメールにもわざわざ左上にホチキス留めしろって書いてあるのに、M子先輩は右上に留めてやがんのです。だからレポートの右上に一度ホチキスの針を抜いた形跡があるのです。
K林教授
M子君はレポート提出ギリギリの時間ですごく慌てながらホチキスを留めたから、そのミスに気が付かないままN山教授に提出したと。
T中
で、N山教授は律儀な人ですからわざわざそれを自分で直すわけです。一度ホチキスの針を外して、紙の四隅を整えようとした時、偶然机の上に置いていた例のポスターと重ねてしまった。N山教授はそれに気づかず、M子先輩のレポートとポスターを一緒にホチキス留めした。
K林教授
N山教授が挟み直しを行ったという証拠に、M子君のレポートの最終ページに挟まれていたポスターには、ホチキス針が貫通した形跡がない。
T中
ということは、レポート内のポスターは正しく左上のホチキスのみで留められているわけです。M子先輩はバカなので右上にホチキス留めしたから、この悪質なポスターを挟み込んだのは、レポートを正しく左上にホチキス留めをした人物に限られる。
K林教授
となると、やっぱりN山教授だな。
T中
ええそうです。そしてN山教授はM子先輩のレポートを採点するときに初めてレポート内のポスターの存在に気が付いたから、M子先輩が挟んだものと勘違いし怒り心頭になって、K林ゼミに駆け込んできた。
K林教授
謎は全て解けたな。
T中
ええ、解決です。
K林教授
では本日のK林なんでもゼミナールはこれで終了。
T中
みなさん、さよなら、さよならー。また次のミステリーシリーズでお会いしましょう。
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